今回のBGMは 名曲「孤悲」
この歌を聴きながらお読みいただければ・・
ある老人ホームのお話。
その老人ホームは
時間が止まっていた。
朝が来たのも気づかず
ただ食べるだけの味気ない食事を流し込み
リハビリ用の手すりには埃が溜まり
起きぬけのままの布団
閉ざされ続けている、手垢に汚れた窓
そこら見える花壇には
花もなく
荒れ果て
訪れる家族もどこか物憂げ・・
おばあさんは化粧を忘れ
寝間着のまま過ごし
おじいさんは 「昔の俺はカクカク・シカジカ・・」
想い出の中に生きていた・・
そんなホームにある日一人の
「紳士」が入所してきた。
ホームスパンの三つ揃えに
杖というよりステッキと言った方がハマる杖をつき
ボルサリーノを軽くあげながら
行き交う人に
「ごきげんよう」と眩しい笑顔で挨拶をする度
ボルサリーノからハラリと落ちる銀髪を額に揺らしながら
その「紳士」ホームに入ってきた。
その日からだった・・
ホームに「奇跡」が起きたのは・・
おばあさんたちは なぜかソワソワ・・
「紳士」が廊下を通る時 見えてしまう自分のベッド回りを
片付けはじめ 寝間着から着替えるようになり
介護職員に雑誌の切り抜きの「リーゼ」の寝ぐせ直しを欲しがった。
やがて 窓は磨きあげられ
花壇を手入れする人が現れ
そうして動ける人に負けじと リハビリの手すりには行列ができた。
それを見たおじいさんたち。
こうしちゃおれん!!と
髭をそり 髪を整え ラクダの股引はチノパンに変わり
ヨレヨレのランニングシャツは ノリのきいた真っ白いシャツに変わった。
やがてホームは 明るくなり
笑顔があふれ
開け放たれた窓の下に見える花壇には花が咲き誇り
ハツラツとした場所に変わっていった・・
・・・・・・・・・・・・・
老人ホームで 髪を切る・・
その中での 「野望」
僕は「これ」がしたいんだ。
僕が髪を切ることで こんな奇跡を起こしたい。
恋やときめき・・生きる喜び
戦争や時代の流れの中
叶わなかった想い 引き離された恋心
別れ 死別・・
恋=孤悲(こい)
*孤悲って古今和歌集だか万葉集だかに
防人=さきもり(九州の防衛に召集されて戦争に行く人)
恋しい人が防人に召集され その別れの悲しさを詠んだ句に
「恋」を「孤悲」と言う字をあてて詠んだ句があるの・・
なんか・・1000年くらいたっても伝わるよね
どんな時代も変わらないんだね、人の恋心って・・
胸が締め付けられるよね・・「孤悲」って「恋」・・・
実は一番ときめいてドキドキしたはずの「青春」
人によってはそこが、抜け落ちて その中で結婚をしたり
たった一人で闘いながら生活したりして
子供を育て 生きて やがて老い・・
別にそれが何だとは言わない 不幸とか苦労とか
僕が言えるわけもない。
ただ・・
だんだんと 身の回りや髪形 服・・
どうでもよくなるのも 分からないでもないけど
僕が髪を切ることで 心や生活 人間関係に
何かの変化を起こしたい。
年齢を越えた「青春」を感じてほしい。
「青春とは人生のある期間を言うのではなく
心のありようを言う。
常に上を向き好奇心にあふれた60歳は青春であり
20歳でも下を向き 新たな野心さえ芽生えない者に老はくる」
これがボランティアカットの
「野望」
その小さな変化が やがて上の文章のように
「奇跡」に繋がれば・・
もちろんまだそれは無いんだけど
嬉しいつぶやきを先々月に聞けたの。
それは・・
癌治療で髪が抜けてしまった おばあさんのつぶやき。
つづく・・
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